Atmospheric Chemistry Group, ISEE & GSES, Nagoya University Japanese/English
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大気エアロゾルとは

大気エアロゾルの放射、雲過程との関わり

大気中には、エアロゾルと呼ばれる微小な粒子(直径:数ナノメートルから100マイクロメートル程度まで)が浮遊しています。その大きさは極めて小さく、浮遊している個々の粒子を肉眼で見ることはできませんが、1立方センチメートルあたり数百個から数万個ほども存在します。このエアロゾルは、雲・降水過程を通した地球上の水の循環や、放射のエネルギー収支に密接に関連していることが知られています(右図)。

研究のアプローチ

私たちは、大気エアロゾルに含まれる構成成分に注目し、その多様な特性が地球の気候に対してどのように影響しているのか、「物質科学」的な基盤に立脚した研究によりその理解を目指しています。大気化学研究室では、大気エアロゾルの吸湿特性や不均一反応過程など、気候プロセスとの関連性が高いと考えられる過程や特性に焦点をあて、野外観測と室内実験の2つのアプローチで解き明かします。そして、大気化学をより深く理解し、気候変動のメカニズムのより正確な把握に結びつく知見を得ることで、気候変動の理解に貢献することを目指しています。

主な研究課題

大気エアロゾルの化学成分とそこから読み解く起源

大気エアロゾルの測定装置

エアロゾルは、人間活動や自然界の現象により大気に放出される上、大気中の気体が粒子に変化する過程によっても生成します。また、大気中を浮遊する間に、化学反応によってエアロゾルを形作る物質が変化していくと考えられています。このため、大気エアロゾルは場所や時間、さらには個々の粒子ごとに様々な組成を持っています。

私たちのグループでは、大気エアロゾルの性質を決める本質的な要因のひとつである「化学組成」に着目しています。この研究では、一立方メートルの空気あたりに数マイクログラム程度しか存在しないエアロゾル成分を定量できる最先端技術であるエアロゾル質量分析法(右上図:装置写真)や、フーリエ変換赤外分光(FTIR)法など分析手法を駆使して有機物の化学構造的な特徴などを明らかにします。また、その複雑な組成がエアロゾルの発生源や生成過程と結びついていることを利用し、大気エアロゾルの起源について深く知ることを目指しています。

植生

このような研究において、私たちはエアロゾルに含まれる有機物(有機エアロゾル)の役割を知りたいと考えています。有機エアロゾルは、陸上・海洋生物に由来する放出・生成や、森林火災や農業活動などのバイオマス燃焼による放出など、地球上の生物活動とさまざまな形で関係しています。更に、化石燃料の使用など、人間活動により放出・生成される有機エアロゾルも存在します。このように、有機エアロゾルは極めて多様な放出/生成過程を持つ上、大気中で化学的変質を受けることで、その組成や分布はさらに複雑なものになると考えられます。有機エアロゾルと気候の関係は難解で、その解明はチャレンジングな課題として残されています。

雲を作るエアロゾルはどれか?:大気エアロゾルの吸湿特性と雲凝結核能力

エアロゾル粒子

大気中においてエアロゾルは、周りの水蒸気を取り込んで大きくなり、また放出して小さくなることを繰り返しています。この粒子が水を取り込む性質(吸湿特性)は、粒子が太陽光を散乱する程度や、雲粒化する能力と密接に関係していることから、エアロゾルの気候プロセスへの関与を理解する上で重要な特性です。ところが、大気エアロゾルは、そこに含まれる有機物が複雑な組成を持つうえ、個々の粒子の組成がそれぞれ異なっています。そのため、大気エアロゾルの吸湿特性を理解することは容易ではありません。

私たちは、吸湿タンデムDMA(HTMDA)や雲凝結核カウンタ(CCNC)と呼ばれる先端計測装置を用いて、直径がわずか100ナノメートル程の大気エアロゾルが、空気中の水分を取り込んで大きくなる程度を詳細に調べています。これらの装置で得られるデータと、粒子の化学組成の分析などを組み合わせることで、有機物が、粒子による水蒸気の取り込み/蒸発に、どのように作用しているのか評価することができます。また、大気中に存在する個々のエアロゾル粒子が雲粒の核として作用する能力を間接的に算出することもできます。これらの解析から、エアロゾルが地球の放射収支や雲過程におよぼす影響を理解することを目指します。

吸湿性

沖縄における大気エアロゾル粒子の吸湿成長度(加湿による粒子直径の増加率)と空気塊の経路の関係。

Reproduced from M. Mochida, C. Nishita-Hara, Y. Kitamori, S. G. Aggarwal, K. Kawamura, K. Miura, and A. Takami, "Size-segregated measurements of cloud condensation nucleus activity and hygroscopic growth for aerosols at Cape Hedo, Japan, in spring 2008," J. Geophys. Res., 115, D21207, doi:10. 1029/2009JD013216, 2010 by permission of American Geophysical Union (AGU). Copyright 2010 AGU.

非水溶性エアロゾルの動態と気候影響

SP2

化石燃料の燃焼や森林火災で発生するスス粒子(ブラックカーボン)は、太陽放射を効率よく吸収して大気や雪氷を加熱する効果を持っています。また、黄砂などで知られる、風による巻き上げで大気に放出される鉱物ダストは、水の雲粒を凍らせる核(氷晶核)として働くことで降水形成や雲の光学特性に影響を及ぼしていると考えられています。これらの水に溶けない微粒子(非水溶性エアロゾル)は、他の有機や無機のエアロゾルに比べて一般に大気中の数濃度は低いものの、その特徴的な性質により放射・雲と相互作用し、気候変化を引き起こす重要な因子となっています。しかし、観測が限られていることや、確立された測定手法がないことから、これらの非水溶性エアロゾルの動態の理解と気候影響の評価には大きな不確定性が残っています。私たちのグループでは、非水溶性エアロゾルの1粒1粒を光学的に検出し、その種別・大きさ・大気中の数濃度を明らかにするための、測定手法の評価と観測を進めています。

ブラウンカーボンとホワイトカーボン

RE

エアロゾルに含まれる光吸収性の成分は、太陽光を吸収して大気を加熱する方向に作用します。光吸収性の成分として代表的なものはブラックカーボンですが、それ以外に光吸収性を示す「ブラウンカーボン」と呼ばれる有機物があります。私たちは、どのような場合に有機エアロゾルが「ブラウンカーボン」としての性質を強く持つのか、あるいは透明に近い「ホワイトカーボン」の性質を持つのか、さらには、どのようなタイプの有機物が「ブラウンカーボン」としての性質に寄与しているのかを、エアロゾル試料の溶媒抽出と、光吸収・化学構造の分析から明らかにすることを目指します。エアロゾルの変質の場である雲水の情報を持つと考えられる、雨水も濃縮して光吸収の研究の対象にしています。

不均一・多相反応がもたらす有機エアロゾルのエイジング

大気エアロゾルに含まれる有機物は反応性気体と反応することで、その組成や性質を変化させていることが考えられます。しかし、このような有機エアロゾルの変質(エイジング)がどのようなもので、有機エアロゾルの大気における役割にどのように影響しているのかは良く分かっていません。私たちのグループでは、質量分析法を用いて、気体成分の関与する大気粒子成分の化学反応過程を調べる試みを始めています。このような過程について理解を深めることは、大気圏において有機エアロゾルがどのように生まれ成長するのか、その一生を理解することに結びつくと期待されます。

ナノ・マイクロスケールの現象から捉えるエアロゾルの「一生」

赤外吸収測定装置

エアロゾルはナノ・マイクロサイズの小さな物質です。我々のグループでは、エアロゾルのサイズが小さいために、大きい物質 (バルク) とは異なる現象が起こる可能性に着目しています。エアロゾルのサイズが小さくなると、体積当たりの表面積が大きくなるためにエアロゾル表面の現象が顕著となります。表面では、大気中の水分子 (水蒸気) や揮発性の有機分子が吸着して取り込まれたり、化学反応が起こったりしています。その時、エアロゾル表面の分子は、エアロゾル内部ほど多くの分子に囲まれているわけではありませんが、大気中 (気相中) よりは多くの分子に囲まれている “中途半端な” 環境におかれています。そのため、エアロゾル内部とも、大気中とも異なる化学反応が起こります。(Ishizuka et al., J. Phys. Chem. Lett., 11, 67-74, 2020)

また、大気中の湿度が下がると、液相のエアロゾルに含まれる水分量が減ります。バルク溶液であれば、水分量が減り、溶液に含まれる無機塩の濃度が高くなると、結晶化が起こります。しかし、大気中を漂う小さなエアロゾルは、容易に結晶化しません。そのため、熱力学的に準安定な水滴のまま、大気中を漂っていると考えられます。我々は、表面で起こる特異的な分子過程・化学反応や、準安定な熱力学的特徴が、大気中でのエアロゾルの生成・成長・変質において重要な役割を果たしているのではないかと考えています。

気相中の分子が集まってエアロゾルができる過程や、大気中で浮遊するエアロゾルが成長・変質する過程を再現する手法。サイズや化学組成、相構造などの変化を計測する分光法。非常に小さい粒子をナノスケールで観察する電子顕微鏡法。表面近傍で起こる局所的な現象を捉える質量分析法。様々な実験手法を開発し、組み合わせて、ナノ・マイクロスケールの現象からエアロゾルの「一生」を明らかにすることを目指します。

野外大気観測

沖縄の辺戸岬

大気化学研究グループでは、開発した実験装置等を用いた野外大気観測を実施しています。これまでに、沖縄や和歌山などにおいて集中大気観測を行いました(右図:観測サイトから臨む沖縄辺戸岬)。また、研究船を利用した海洋エアロゾル観測も行っています。2021年からは、北極ニーオルスンや、フィンランドのヒューティアラにおける長期エアロゾル採取も始めており、世界の様々な環境における大気エアロゾルの研究を進めます。

これらの観測では、他の大学や研究機関と連携して、大気化学過程の解明に取り組んでいます。私たちのグループの装置で得られたデータと、他の研究グループで得られた観測結果と照合することで、これまで十分に理解されていないエアロゾルの特性・プロセスに踏み込んだ解析を行うことを目指します。


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